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  • 🍉医学のはなし #1(後編) 血清療法

    2026.08.10

    前回の「医学のはなし #01」では、北里柴三郎が破傷風菌の純培養に成功し、破傷風の原因を科学的に調べる道を切り開いたことを紹介しました。

    しかし、

    病気の原因が分かっただけでは、人を救うことはできません。

    では、破傷風から人を救うにはどうすればよいのでしょうか。

    今回は、北里柴三郎が挑んだ「血清療法」の物語です。

    原因が分かっても、まだ問題があった

    破傷風の原因が破傷風菌だと分かっても、もう一つ大きな問題がありました。

    破傷風菌が作り出す毒素が、神経に作用して、筋肉の強いこわばりやけいれんを引き起こすのです。

    つまり、

    破傷風菌を見つけただけでは、病気の仕組みをすべて説明できませんでした。

    北里たちは、さらに研究を進めます。

    毒素に対抗する力は、体の中に作られる?

    そこで北里たちが注目したのが、

    「体は、この毒素に対抗する力を作るのではないか?」

    ということでした。

    破傷風菌を使った実験を重ねると、免疫をつけた動物の血液には、破傷風の毒素を無害化する力が生まれることが分かりました。

    この力が、抗毒素です。

     

    その「力」を別の動物へ

    ここからが、大きな発見でした。

    抗毒素を含む血清を、別の動物に与えてみます。

    すると、その動物も破傷風の毒素から守られることが分かりました。

    つまり、

    病気と戦う力を持つ動物の血液から、その力を別の動物に与えることができたのです。

    これは、それまでの医学にはなかった画期的な考え方でした。

     

    これが「血清療法」

    抗毒素を含む血清を利用して、病気を治療する。

    これが、血清療法です。

    1890年、北里柴三郎とエミール・ベーリングは、破傷風やジフテリアについて、血液中に毒素を無害化する物質が生じることを報告しました。

    この研究は、血清療法の確立へとつながっていきます。

     

    「自分で作る」のではなく、「もらう」

    血清療法には、大きな特徴があります。

    通常、私たちの体は病原体やその成分に反応して、自分で抗体などを作ります。

    しかし血清療法では、

    すでに作られた抗体や抗毒素を、外から受け取ります。

    このように、自分の体で抗体を作るのではなく、すでに作られた抗体や抗毒素を外から受け取ることで得られる免疫を、「受動免疫」と呼びます。

    血清療法は、この受動免疫を治療に利用したものだったのです。

     

    「免疫」を治療に使うという発想

    血清療法の大きな意味は、破傷風の治療法が一つ増えたことだけではありません。

    それまで、

    「免疫は病気から体を守るために、体の中で起こるもの」

    と考えられていたものを、

    「その免疫の力を取り出して、治療に利用できる」

    という発想へと発展させたのです。

    北里とベーリングの研究は、その後の免疫学や感染症治療の発展にも大きな影響を与えました。

     

    🍉130年以上たった今も

    血清療法という言葉は、現在では少し昔の医学のように聞こえるかもしれません。

    しかし、その考え方は今も医療の中に残っています。

    例えば、破傷風に対して使用されるヒト破傷風免疫グロブリン(TIG)は、破傷風毒素に対する抗体を直接投与することで、毒素から体を守ります。これはまさに、受動免疫の考え方です。

    つまり、

    「免疫の力を外から借りる」

    という考え方は、130年以上たった今も続いているのです。

     

    🍉この発見が教えてくれたこと

    北里柴三郎の研究は、

    「病気の原因を見つける」

    だけでは終わりませんでした。

    原因が分かれば、

    「では、どうすればこの病気と戦えるのか?」

    という次の問いが生まれます。

    そして、

    体が作った病気と戦う力を、治療に利用する。

    その発想が、血清療法につながりました。

    医学は、

    原因を見つける。
仕組みを知る。
そして、治療につなげる。

    そんな一歩一歩の積み重ねによって進歩してきたのです。

     

    🍉次回予告

    病気の原因を見つけ、

    その病気と戦う方法も見つかりました。

    では、その後の医学は、

    「病気になってから治す」のではなく、
「病気になる前に防ぐ」

    方向へ進んでいきます。

    次回は、

    「ワクチン」

    の歴史へ。

     

    参考文献・出典

    ・学校法人北里研究所「北里柴三郎 年譜」
    ・学校法人北里研究所「所蔵資料のご紹介」
    ・Nobel Prize. Emil von Behring – The founder of serum therapy.
    ・CDC. Immunity Types / Principles of Vaccination.
    ・CDC. Clinical Care of Tetanus.

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